「そう、怖い顔で睨まないで貰いたいものだ。せっかく、素敵な姿をしているというのに」
そう言って、教頭、いや、魔物は卑しい笑みを浮かべる。
今のアスカには魔物を睨み付けるほか何もできない。
彼女は今、コンクリートを隆起させて作った張り付け台に縛り付けられている。
わざと彼女の柔肌に食い込むように縛り上げられている。
見ているだけで痛々しい姿だ。
その姿を魔物は笑みを浮かべ、見ていた。
「我の好みとしてはもっと恐怖に引きつった表情をして貰った方がいいのだが。まぁ、これはこれで刺激的だ。彼がここに来るまで十分、堪能出来る」
魔物の言ったことを否定するようにアスカは横を向いた。
「カイトくんはここには来ないわ。光輝石を何処か安全な場所に隠してって言ったんだから」
本当はカイトに助けに来て欲しかった。だけど、まだ勇者として覚醒していない彼を危険に晒すことは出来なかった。勇者の巫女としてではなくそう思っている。
魔物は彼女の気持ちを見透かしたような口調で、
「男というものを分かっていないようだな」
と言った。
そして、アスカに近寄ると彼女の頬を掴み、自分の方に顔を向けさせた。
「彼は必ず来る。そして、光輝石を我に渡して死ぬ」
「カイトくんは来ない! 絶対に」
「来る。いや、もう来ているが正しいな」
「えっ」
「彼は今、魔獣と戦っている真っ最中だ」
魔物は彼女の頬を離し、ゆっくりと撫でた。
不快な感触にアスカは顔を振って、その手を払った。
「何時まで、その強気が続くかな? 魔獣には本気で迎え撃つよう命じている。さて、何時まで逃げ回れるかな?」
さも楽しそうに話す魔物をアスカは涙目になって睨み付けた。
「ははははははっ。いいぞ、その目だ」
魔物の哄笑が屋上に響き渡った。

そのとおりだった。鳥は本気だ。本気でカイトを殺そうとしている。
あの何処か愛らしい? 丸みのある体型から鋭角なものへと姿を変えていたのだ。
有るのか無いのか分からない首はスラリと伸び、翼は鋭角に伸び、一本一本が精巧な彫刻のようになっている。そして、くすんだ赤だった羽毛が燃えるような紅へと変わった。翡翠色に輝く目が印象的だ。もう、昔の面影は何処にもない。
魔獣は本気になることでその姿を変化させる事が出来るのだ。
それはそうと、我らがカイトは一体どうしているかというと。
幅跳びの砂場に頭から突っ込んでいた。
巨鳥が変化した時に強い衝撃波が起こり、カイトをぶっ飛ばしたのだ。
そして、結果がこれ。
「ぶはっ、ごほっごほっ」
起き上がったときに起こった砂埃で噎せた。
「げっ、やばい」
が、それどころじゃない。
巨鳥がその美しい翼を羽ばたかせ、舞い上がったのだ。舞い上がったら当然。
「こっちに来るぅぅぅぅっ!!」
叫びながらもカイトは冷静に対処した。砂場に伏せたのだ。
彼の真上を巨鳥が飛び去って行き、その際、巻き上がった砂が容赦なくカイトに襲い掛かる。口の中に砂が入った。
一方、カイトを羽ばたきで起こした風で吹き飛ばそうと考えていた巨鳥は思惑通りにいかず、苛立った。苛立ちを紛らわそうと一鳴きする。
ならばと、巨鳥は体勢を整え、カイトに向かって急降下してくる。
「特攻!?」
カイトは剣を握り直して、砂場から逃げ出した。
違う。巨鳥はその脚でカイトを掴み、空中から地面に叩き付けるつもりなのだ。
街路樹も一掴み出来そうな脚がカイトに襲い掛かる。
が、紙一重の差でカイトはあの脚から逃れることが出来た。
またしても、獲物を逃した巨鳥はもとから鋭い翡翠色に輝く目をさらに鋭くした。
「これじゃ、じっちゃんとの特訓がぜんぜん役に立たないよ!」
敵が高いところから自分を見下ろす。これじゃ、立場が逆だ。
だが、魔獣よりも高いところに立てれば十分に勝てるチャンスがある。
この作戦の有効性は数多くのアニメや漫画が証明している。
迷わずこの策を承認!!
カイトはどうにか、二号館に向かった。案の定、鍵はかけられていない。
階段を駆け上がる。駆け上がる。駆け上がる。かけ・・・・・・あがる。疲れた。
カイトは根性という名のハイオクガソリンを心臓に注ぎ込み、何とかへろへろになりながら屋上に到着した。
案の定、巨鳥は羽ばたきや嘴を使って校舎を潰そうとしている。
発想的にはキツツキが餌をとるときと同じだ。木をつついて、驚いた虫が出てきたところを食べるのと。
それにあれはアスカをさらっていく時と同じやり方だ。
時折、揺れるが倒壊する事はない。二号館はつい最近、完成したばかりだ。
建設したのは林海学園出身者。そんじゃそこらの事じゃ、倒壊しない。
頼むよ、闘龍剣。
剣に自分の顔を映し、巧くいくように祈るカイト。
意を決し、カイトは屋上の縁に立ち、巨鳥を見下ろした。
天高く星々が明滅している。
大きく息を吸い込む。そして、
「は〜はっはっはっはっはっはっはっ!!!」
巨鳥を眼下に見下ろしたながら高笑いした。
凄まじく気持ちよかった! いや、気持ちよすぎ!! 病みつきになりそうだ。
じっちゃんの気持ちがようやく、分かったような気がした。
カイトは恍惚とした表情で笑い続けた。学校中に彼の笑い声が響き渡る。
校舎を破壊する音なぞ、何処吹く風だ。
巨鳥は一瞬、呆気にとられたように空を見上げていたが、すぐにその大きな翼を開いた。
それを見たカイトは笑うのを止め、手にしている剣に力を込めた。
魔獣を倒す。と言う強い、いや、切羽詰まった気合いがカイトに漲った。
そして、その意思を剣が力へと変える。刀身が白銀に輝き始める。
翼を大きく羽ばたかせる。そして・・・・・・舞い上がった。
「ひっさ〜つ」
そう言いながら、剣を振り上げる。
舞い上がった巨鳥は瞬時にカイトの目線まで飛び上がる。その瞬間。
「とうりゅうけーん!!」
決めゼリフと共にカイトは剣を振り下ろした。
剣は振り下ろされると白銀の刃を生み、巨鳥を一刀両断にした。
断末魔の叫び声を上げながら、魔獣は風に溶けるように消えていった。
「倒したんだ、ボクが。・・・・・・スゴイ」
興奮しすぎて、巧く呼吸が出来ない。
それでも、カイトは剣を高く、高く掲げた。
「ホントにスゴイ剣だ!」


「?」
小首を傾げるアスカ。
一瞬、魔物が苦虫を噛み潰したような顔をしたからだ。
魔物はアスカの視線に気付いたのか平静を装った。
「意外なことが起こったぞ。どんな方法でかは分からないが魔獣が倒された」
結界が二重に張られていた為、この魔物にはどのようにカイトが魔獣を倒したのか分からないのだ。
「見かけに寄らず、なかなかすごいじゃないか」
と、笑みを浮かべながら言った。が、その実は腸煮えくり返っているに違いない。
アスカは魔物の目をみながらそう感じた。
「ならば、ここは少し趣向を変えてみるか」
「趣向?」
「彼を貴女の前でなぶり殺しにする。そうした時の貴女の表情がどうなるか実に楽しみだ」
魔物は額に手をやり、笑った。
「最期に持つ感情が喪失感とは素晴らしい趣向だとは思わないか。ん?」
「最期の・・・・・・感情」
「そうだ。貴女にはあの方を復活させる際の贄となって貰う」
「なっ!」
アスカは絶句した。
魔物の言うあの方とは当然、彼らを統べる存在の事だ。
悠久の昔、数多の犠牲を払って封印した存在。
意志を持つ生物が発する負の意思を昇華することなく力と出来る唯一の存在。
そんなものが今の世に蘇ればどうなるか分からない。
数少ない希望の一つである勇者もまだ、覚醒していない。状況は絶望的だ。
「何をそんなに驚いている。今の世に生きる魔物の願いはただ一つ。あの方の復活だ」
こんなに状況が切迫してる何て。
アスカは戦慄した。こんな時に何もできないなんて。
自分を縛める縄が憎かった。
その彼女を嘲笑うかのように魔物は、
「無駄だ。その縄には我の力が込められている。そんな事で外れはせぬ」
と言った。その時、

ばんっ!

勢い良く屋上の扉が開いた。そこには、
「カイトくん!!」
「アスカ、迎えに来たよ」
縄で縛り上げられた彼女の痛ましい姿にカイトは顔をしかめた。
カイトにはそんな趣味はない為、痛々しいとしか思わない。
が、それに喜びを感じる者が声を発した。
「待っていたぞ。彼女を救いたければ、光輝石を渡して貰おうか」
「嘘よ。渡しちゃダメ!!」
そんな事は分かりすぎるくらい分かっている。
こんなシュチエーションで悪役が絶対に吐くセリフだ。
そして、渡した瞬間、笑いながら攻撃してくるに決まっている。
だったら、やることはただ一つ。
かなり、卑怯かも知れないけど、有馬も言ってる。
漢にはなりふり構わずやらなきゃいけない時がある、と。
「さぁ」
促すように魔物が一歩、前にでる。
その瞬間、カイトは手にしていた剣を振り上げ、
「いけぇぇぇっ!!!」
と、気合いと共に振り下ろした。
闘龍剣に力が漲り、それが魔物へと襲い掛かる。
「なにぃ!?」
驚愕の声を上げ、魔物は両手を前に出した。
力が魔物に到達しようとした瞬間、何かに遮られ、魔物自身に損傷を与えることが出来なかった。
「お、おのれぇ・・・・・・その力か。魔獣を倒したのは!」
が、それでもかなり疲れさせることは出来た。
「カイトくん。もしかして、覚醒したの!?」
魔物とは違うがアスカも驚きで目を丸くした。
「違うよ。この剣のお陰だよ」
魔物から目を離さずにカイトはそう言うと剣を青眼に構えた。
「なっ、その剣は。何故だ! 何故、とっかのつるぎを貴様が持つ!!」
「えぇ、とっかのつるぎ!?」
十拳之剣。荒乃王が八又大蛇の首を切り落とした時に振るった剣の事だ。
「とっかのつるぎ? 違う。これは、闘龍剣だ!!」
妙に気合いを入れて訂正するカイト。一生懸命考えて名付けたのだ。訂正したくなるのは当然だ。
「カ、カイトくん」
不謹慎にも少しだけ呆れるアスカ。まぁ、無理もないが。
何にせよ、魔物にとって、カイトはともかくあの剣は脅威以外の何者でもない。
剣の力は強大だ。如何に自分に力があるとは言え、あれの直撃を受ければ消滅するしかない。魔物は考えを巡らした。その結果。
「動くな!」
アスカの首に魔物は右手を当てた。
直接的にアスカに危害を加える、である。
あまりにも安直で独創性の欠片もない行動だが実効性は高い。
「貴様が少しでも妙な行動を起こせば、分かっているな」
「くっ」
何で、悪役は同じ様な行動とセリフしか言えないんだよ。
カイトは内心で憤慨し、舌打ちした。
「さぁ、光輝石を渡せ」
左手を突き出す。
しかし、カイトは動くことが出来ない。
渡せない。渡せば、終わりだ。
カイトのおたくとしての直感が赤のテールランプを回す。
「早くしろ。殺されたくないだろ」
「カイトくん、ダメよ。こんなヤツに渡しちゃ!」
「黙れ」
彼女の細く白い首に魔物の指が食い込む。
「くあぁっ」
声にならない声、息にならない息が吐き出される。
「早くしろ!」
焦っているのが手に取るように分かる。
これ以上、焦らしたらアスカが。
観念して、ペンダントを渡そうとしたその時、空を覆っていた雲が去り、月光が屋上を照らす。
「教頭先生!?」
カイトは目を丸くし、天を仰いだ。
「何て意外な展開なんだ!!」
「そうか、貴様もこの男の教え子か」
「教え子? ・・・・・・教え子か。でも、何か違うような気も」
教頭先生がカイトのクラスの授業を持ったことは一度もない。
だから、教え子と言うのはちょっとおかしい。
でも、お世話になっていないと言えば嘘になるんだよなぁ。
両親ともに教頭先生のお世話になっている。って事は間接的にはお世話になっていることになる。でも、その教頭先生は理事長である父さんが雇っている。
ん?カイトの頭に引っかかるものがあった。
そう、最後の教頭先生は理事長である父さんが雇っている、の部分である。
引っかかっていたものの正体が判明した途端、カイトの脳裏にある策が浮かんだ。
この瞬間、カイトに悪魔が宿った。
「教頭先生!」
「我は教頭などではない」
「でも、聞こえてるはず」
確信があった。お約束としてそう言うものだからだ。
「教頭先生! 生徒にそんな事をしても良いと思ってるんですか」
「カイトくん、ダメよ。今の教頭先生は魔物に身も心も乗っ取られているのよ」
「その通りだ。今、この男の全ては我の手中になる。早くしろ。・・・・・・なっ!?」
魔物はアスカの首を絞めようとしたが右手に力が入らないのだ。
「何だと! 何が起きたというのだ!?」
混乱する魔物。絞首されると思って顔をしかめようとしたアスカはキョトンとしている。
ただ一人、カイトだけが勝利への確信を持った。
いける、と。
「こんな事をしたら、査問委員会にかけられちゃいますよ。父さんも母さんもそんな教師には情け無用だから。即刻クビになりますよ。退職金も出ません!!」
林海学園には査問委員会が存在した。重大な問題を起こした教職員を処罰する為の機関だ。意外なことだが査問委員会は創立以来一度も開かれたことがないのだ。
委員会招集第壱号、それも教頭がその対象となれば、林海学園が存在する限り、半永久的にその名が残ることになる。非常に不名誉なことだ。
カイトのこの一言に魔物は苦しみ始めた。
「効いてる。教頭先生の教師魂が苦しんでるんだ」
あと、一撃で決まる。カイトは最後の一撃を加えるため深く息を吸った。
「教頭先生の目標とする教師像とはこんなものなんですか!!」
朝礼の際、教頭先生が憧れていた先生の話をしていた事を思い出したのだ。
その時の彼は少年のような目をしていたのが印象に残っている。
「!!」
魔物は、いや、教頭先生は両手で頭を抱え込み、口から泡を吹き、藻掻き苦しんだ。その様はまさに悪霊払いそのものだ。
教頭先生から黒い湯気のようなものが立ち上る。
「この身体は我のものだ。貴様は大人しく寝ていればよい」
「己の欲望のため、生徒に手を出させるわけにはいかない。それにここでリストラはこまる。しかも、査問委員会にかけられての退職は絶対に困る!!」
同じ口から異質な声が響く。
「寝ておれば、もう、重圧を感じることはないのだぞ」
「いや、それでも。それでも、私は教師なのだ!!」
その声と同時に教頭先生の身体から黒い塊が抜け出た。
教頭先生の強い教師魂がついに魔物を追い出したのだ。
しかし、その代償として彼は精根尽き果て気絶してしまった。
『くっ、身体がなければ力を発揮できぬ』
悔しげな声を残して、黒い塊は何処かへ飛び去っていった。
それを見送ったカイトはすぐにアスカの元に駆け寄った。
彼女は身体と脚、それぞれ縄でグルグル巻きにされていた。
「ちょっと、待ってて。今、縄を切るから」
カイトはアスカのその痛ましい姿に顔をしかめながら、脚の方から縄を切った。
「カイトくん、怪我とかない?」
「うん。こう言うときの主人公はすっごく運が良いって相場が決まってるから」
と強引にでも思いこむことで自分の中の恐怖を抑え付けていたのだ。
「良かった」
心底ホッとしたアスカ。
彼女を切らないよに注意しながら縄を切った。
縛めから解き放たれたアスカは前のめりになったが、たたらを踏み、堪える。
そして、すぐ側にいるカイトに抱きついた。
「カイトくん、ごめんね。ごめんね」
抱き付きながら、彼女の瞳から涙が溢れてきた。
カイトは顔を真っ赤にさせながら、抱擁を受けていた。
「と、とにかく、無事で良かったよ」
アスカを身体から離すとポケットの中からペンダントを取り出し、彼女に手渡した。
「はい。預かってたペンダント」
月明かりを受け、キラキラと輝くペンダント。
「・・・・・・ありがとう」
アスカはそれを受け取り、涙を拭いながら微笑んだ。
その彼女の目に闘龍剣が映った。
「その剣って」
「神社の宝物殿に納められてたものだよ。父さんが持っていけって」
カイトはその経緯を簡単に彼女に話した。もちろん、必殺の武器の事は伏せてだ。
その話をアスカは目を丸くして聞いていた。彼女がそうなるのも当然だ。日本神話における有名な荒乃王の大蛇退治に登場する剣が双樹神社にあったのだから。
カイトもアスカからその事を聞いて、彼女以上に仰天した。
「何にせよ。この剣を使うよう言ってくれた父さんに感謝かな」
有馬としてみれば箱に満載していた必殺の武器の方を指していたのだろうけど。
何にせよ、有馬が指定した箱の中にあったこの剣のお陰でアスカを迎えに来ることが出来たのは確かなことだ。
「そうだ。教頭先生は」
ふと、アスカの脳裏に教頭先生の藻掻く苦しんでいた姿が浮かんだ。
彼の元に駆け寄り、口元に手を当てる。呼吸がある。
「どう?」
心配そうにアスカの顔を覗き込む。
「大丈夫みたい。怪我もしてないし、もう少し休めば、気が付くと思うわ」
「そう」
カイトが安堵したその時、下の階から何かの破壊音が響いた。
「なに!」
無意識に剣を強く握る。そして、アスカを背に隠す。
「カイトくん、あそこ!」
アスカが指さした先には巨大な何かが浮いている。
それは落ちるように急降下し、今までアスカを縛めていたコンクリートの柱を押し潰して、降り立った。
それは身体と頭は獅子、尻尾は大蛇、翼は鷹のものを有する奇妙な存在だった。
「合成獣だ!」
合成獣からは微かにホルマリンの臭いがした。
「このような死した物の身体を使わねばならぬとは」
苦渋に満ちた顔を合成獣はした。
あの魔物だ。
「理科室の標本を使ったのよ」
獅子や大蛇、鷹と何でこんな物が林海学園にあるのかは謎だ。
「そんな。何で、あんなに標本がでかくなるんだよ!」
叫き散らすカイトだったが、すぐに状況の悪さを感じ剣を振った。
「いけぇぇぇぇっ」
こんな状況を打開するにはいきなり攻撃するしかない。そう判断したのだ。
剣から放たれた力は合成獣に襲い掛かる。が、それは飛び上がり、難なく避ける。
「二度も同じ手が通じるか」
合成獣は一度、天に咆吼を上げると二人、目掛けて突進してきた。
「アスカ、逃げるよ」
カイトは彼女の手を取り、階段を駆け下りる。背後に注意しながら。
二階の踊り場まで降りたところで背後から何かが来る気配を感じ、カイトは振り向いた。合成獣がすぐそこまで迫ってきている。
合成獣は廊下を楽に通れるほどの大きさになっていた。翼を折り、走るのに邪魔にならないようにしている。
「アスカ、逃げて!」
カイトは叫ぶと手にした剣で合成獣に切り掛かった。
が、剣は合成獣に噛み付かれてしまう。そして、合成獣は首を振り、カイトごと振り払った。
「無駄なことを」
そう、捨て台詞を吐くと合成獣はアスカ目掛けて襲い掛かった。
狙う光輝石の力をアスカに感じたのだ。
アスカは四階に降り立ち、合成獣を迎え撃つ姿勢を見せた。
彼女の手から金色の光が生まれる。封魔の術だ。
カイトを援護しようと準備していたのだ。
「はぁっ!」
彼女は狙い澄まして合成獣目掛けて術を照射した。
が、金色の光は俊敏に動く魔物に命中しなかった。
魔物は避けた方にある壁を使い、方向転換、アスカに襲い掛かる。
強く大きな前足が彼女に襲い掛かり、アスカは壁に叩き付けられ、昏倒した。
合成獣は獅子の爪を出してはいない。彼女を殺すつもりはないようだ。
だが、その意思も踊り場からその光景を見ていたカイトに伝わるはずがない。
何にせよ、アスカの身に危険が迫っていることに変わりない。
「アスカァァァッ!」
カイトは叫び声を上げながら踊り場から飛び出した。
今、アスカを護れるのはボクだけなんだ。
護るんだ!!
剣に金色の光が生まれた。それは陽の光のように見える。
「なにぃ!?」
驚愕の表情をする合成獣。
「たぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
剣は合成獣の胴体を一刀両断した。
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
その瞬間、さらに光が増し、合成獣を包み込んだ。
そして、合成獣は、いや、魔物は断末魔の叫びを残し、消えていった。






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