「アスカ、アスカ」
自分を呼ぶ声が聞こえる。どこか情けない、だけど、優しい声だ。
この声を聞いているだけ不思議と穏やかな気持ちになれる。
「アスカァァァァァ」
声が半泣きになる。突然、声の質が変わってアスカは驚いて目を覚ました。
そこには涙目になったカイトがいた。
「カイトくん、・・・・・・魔物は」
打ち付けられた頭が少し痛い。
辺りを見回しても魔物の気配は何処にもない。
それどころか、あの結界特有の違和感もない。と言うことは。
「魔物なら倒したよ。この剣で」
カイトは涙を拭って、横に置いている闘龍剣をアスカに見せた。
「カイトくん、怪我は?」
「大丈夫だよ」
カイトはそう言って立ち上がり、アスカに手を差し伸べた。
「さっ、家に帰ろう」
「・・・・・・・・・・・・」
一瞬、躊躇したがアスカはカイトの手を取り、「うん」と言った。

校舎を出るとひんやりとした空気が二人を包んだ。
緊張感と火照った身体を癒すには丁度良い冷たさだ。
「奇麗ね」
降るような星々を見つめながらアスカは言った。
「うん」
頷くカイト。アスカの肩を借りているところが少し情けないが仕方がない。
明滅する星々を眺めていたカイトはふと思い付いた。
「そうだ!」
突然のカイトの大声に目を丸くするアスカ。
見ると彼の目は星のようにキラキラと輝いている。
「どうしたの?」
「部活でね。一本、小説を書かなきゃ行けなかったんだけど。なかなか、書けるようなネタが無かったんだよ」
「もしかして、今までのことを小説にしようとか思ってる?」
イタズラっぽい笑みを浮かべるアスカ。
「うん」
満面の笑みでカイトは頷く。
「それじゃ、わたしも手伝って上げる」
「ホントに」
「うん」
「ありがと、アスカ」
そんな二人に月は柔らかな光で祝福していた。
全然らしくない勇者と巫女を。


その後、カイトはアスカの協力を得て、締め切りギリギリの所で小説を完成させ、投稿する事が出来た。見事にカイトは約束を果たしたのだった。エライ!!
そして、その結果はと言うと。
沙耶は見事に生徒会が規定した佳作を受賞し、部長自ら部を守る事に成功。
優は落選したが一本、小説を書き上げただけで満足みたいだ。
そして、我らがカイトも見事に一次で落選
町を騒がしていた放火犯はじっちゃんの執念の捜索の結果、警察よりも早く発見され、じっちゃんの復讐を受けることとなった。復習とは犯人のおたく化だ。
敢えて、犯人をおたくにすることによりじっちゃんが失ったものの価値を教え込み、罪の意識を植え込んだのだ。ある意味、刑務所に長い間入れられるよりもつらいかもしれない。その後、犯人は警察署に出頭したのだった。
マンション町中への放火だけはこの人の意思じゃなくて、魔物に操られていたからなのに。悪いことをすればどうなるか分からないものものだ。

それから、数ヶ月後。
いつもの調子でマンションの階段を上るアスカがいた。手には買い物袋。
学生寮の修復も終わり、何時でもあそこに戻れるのだが、アスカは寮に戻るつもりは無い。カイトも有馬もそれについて何も言わない。
それというのも、
「こんにちわ、アスカちゃん」
「こんにちわ」
と、完全にマンション町中の住人と化しているからだ。
始めてここにやって来た頃に感じていた違和感はもうない。
もう、このマンションがアスカの居場所となっているのだ。
玄関に着いたアスカはポストに一通のハガキが届けられていることに気付いた。
彼女はハガキを手に取った。
「カイトくん宛?」
何気なく差出人を見てみる。
彼女の表情がパッと花開いた。
靴を脱ぐのも、もどかしくアスカは部屋に飛び込んだ。
「カイトくん!」
「おかえり、アスカ」
カイトは居間でゲームをしていた。
あぐらに猫背と言う正統派スタイルで。
「はい、カイトくん」
そのカイトにアスカは満面の笑みでハガキを渡した。
渡されたハガキに目を通したカイトは「あっ」と声を出した。
ハガキにはこう書かれている。

     ほんのちょっぴり、面白かったよ

                 選考員より

「だって」
「なんだかなぁ」
と、照れ笑いするカイトに喜ぶアスカ。
二人の間に穏やかな笑いが生まれた。
今日も良い天気だ。


おわり






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