第五章

第十五話 行事の合間に

「いやぁ、次の王様は大したもんだ」
「人族だけどな」
  どこかふて腐れたように男は言った。
  首都エグゼリスは駄竜発生に時ならぬ緊張を得たが、速やかにこれを討ち取ったとの報せを受けて喝采が湧き起こっていた。
  ラインボルトにといてリーズは不倶戴天の敵だ。竜族と姿形が同じく、脅威でもある駄竜退治は優先度が高く、それを成した者への賞賛を惜しまない国風だ。
  副王就任式という慶事に続いてのことだけに国民の歓声は常よりも一回り大きい。
  だが、それを面白く思わないものもまたいるのだ。
「人族って言っても副王殿下を普通のと同じにはできんだろ」
「そりゃそうだが……」
「それともリーズの貴族様が次の王様になった方がよかったか?」
「…………」
  男はムスッとした顔をして何も言わない。
  この二人のやり取りはラインボルトのあちらこちらでまま見られた。
  人族を次の魔王に戴くのが気に入らないのだ。
  功績は認めているし、竜族が魔王になるよりもマシだとも思っている。
  だけど、気に入らないのだ。
  歴代魔王の中には外国出身の者も幾らかいる。そういった者たちもアスナと同じ様な見られ方をしている。これは王位継承の仕組み上、仕方がないこと。
  それと同じ様なものだと頭では分かっていても、彼らには納得できないのだ。
  今代の魔王の後継者は人族。幻想界の者ですらない。
  地球人の感覚で言えば、大災害を受けたところをUFOに乗って現れた宇宙人が瞬く間に問題を解決。そのまま指導者の座に納まってしまったようなものだろう。
  全ての人が受け入れられなくて当然なのだ。それでも人魔という人族を出発点とした種族がいることもあって、それほど強い反感はない。
  ただ、薄ぼんやりとした不満だけが人々の心の上に被さっていた。
「人魔の規格外がいるんだ。次の王様は人族の規格外なのかもしれねぇぜ」
「規格外ねぇ」
「おうよ。それに爺様は偉い将軍様で、親父殿は大商人らしいぜ」
「ホントかねぇ」
「信憑性はあると思うぜ? うちの店は就任式に参加しにやってきたとある使節に物を納めてるんだが、そこの騎士殿が話してたんだよ。騎士殿が言うんだから間違いねぇよ」
「出来すぎな話だと思うがなぁ
「だけど、そうじゃなかったら説明がつかねぇよ」
  他国に較べて国民の権利と義務が大きいラインボルトでも血統は重く見られている。
  父祖に議員などを務めた者がいれば、その子らにも相応の能力があると期待されるのと同じようにアスナの祖父と父が何者であるかは重要な要素として見られていた。
  ラインボルト政府もこの機微を十分に理解している。使節たちの間で流れ始めた噂話をこれ幸いと国民に向けても流して、アスナを貴種と見られるように仕向けていた。
「それよりも今晩は旧城公園に行こうぜ。駄竜の首が飾ってあるそうだ」
「振る舞い酒が出てるらしいな」
「おうよ。どこから聞きつけたのか屋台も出てるって話だ。近衛の団長殿と賢狼の若君の敢闘を祝って乾杯だ」
「そういうことなら行っても良いか」
  その振る舞い酒はアスナの財布から出ているのだが、この辺りは現金なものである。
  不満があろうとなかろうと、貰える物は貰っておく。庶民とはそんなものだ。
  狩猟会での様々な出来事は吟遊詩人が酒場で歌い、噂好きや事情通たちによって広められていった。
  後日のことになるが、駄竜を討ったアストリアや競技会の優勝者、見目麗しい騎士たちの姿絵が飛ぶように売れていくことになる。常になく諸国の騎士たちが注目されていた。
  アスナの個人的な武勇といえばフォルキスとの一騎打ちが挙げられるが、あまりにも非現実的すぎて多くの者は信じていなかった。
  この他国の騎士を持ち上げる風潮はアスナへの言いようのない不満の捌け口となっていたのだ。
  そんな下々の感情を余所にアスナは自分の執務室で宰相シエンと大公ボルティスに狩猟会の報告をしていた。一通り報告をし終えたアスナは大人二人から自分の振るまいが良かったのかどうか評価を待つ。
「良い振る舞いであったと思います。大公は如何ですか?」
「そうじゃな。ディティン公の捜索に八代目を加える口実は中々の物じゃ。実際、駄竜が出ておったしな。現地での調査は八代目に任せておけば問題ない」
  及第点のようでアスナは内心で安堵の息を吐いた。
「じゃが、ディティン公に鎧を贈るのはやり過ぎじゃな」
「え、けど、お礼はちゃんとしないと」
「無論。礼はせねばならん。落とした首を贈れば良かった。あれを剥製にでもすれば我が国と賢狼が力を合わせた証となったじゃろうに」
「それと鎧を仕立てるための資金もばかになりません」
  と、シエンは言った。彼の背後に見える大きな青磁の壷ぐらいの値段だろうか。
「……どれぐらい?」
「内府殿の小言を覚悟していただく程度には」
「うげっ」
  無駄遣いをした時は平板な声で延々と王宮府がどうやって利益を得ていくのか解説されるのだ。正直、怒鳴られるよりも申し訳なさが大きい。
「しかし、アジタ王もやり手じゃな。他人の財布で賢狼に恩を着せおった」
  アストリアに駄竜の皮で作った鎧を贈るよう助言したのはアジタ王ティルムールなのだ。
「今回のことは授業料と思った方が健全であろうな。言葉一つで大きな出費をせねばならないこともある。良い勉強になったじゃろう」
「……はい」
「ディティン公には帰国の際に駄竜の首をお持ち帰り頂きましょう。それと各国使節と騎士たちには勲章を授与した方がよろしいでしょう」
  と、シエンが付け加えた。アストリアには鎧を贈り、他は何もなしという訳にはいかない。即位式に招待する以外にも形に残る物を用意した方が良い。
「分かった。内府に伝えておく。……でさ、エルからも二人に聞いておけって言われたんだけど。ニーナとの縁組ってあると思う?」
「賢狼公はアジタ王陛下のお言葉を冗談として笑わなかったのですね?」
  アスナは黙って頷いた。確かにあの時のヴォルゲイフは真顔のままだった。
「有力な嫁ぎ先だと認めておられるようですね。仮に縁談を打診があった場合、現状において内閣は反対しません。殿下と姫様方の判断にお任せします」
「イヤにあっさりだな」
「婚姻は事実上の同盟です。この国難の折、五大国の一つが味方となる利点は大きい。特に我が国の産物を売りたい、もしくはサベージの物品を購入したいと考えている通商大臣は諸手を挙げて喜ぶでしょうね」
「そんなに違うものか? 今も水面下で交渉しては成立せずを繰り返してるみたいなのに」
「例えばじゃ。アスナ殿の家と儂の家が隣り合っていたとしよう。アスナ殿の家の庭には美味い果実を付ける木がある。それはアスナ殿の家族が食べる分よりも少しだけ多く実をつける。さて、儂もその果実が好きでアスナ殿に幾つか分けて貰えないかと尋ねる。アスナ殿はどうされる?」
「ご近所のよしみで多い分はお裾分けするかな」
「ありがたいことじゃ。後日、その実の味を気に入った儂は再びアスナ殿の家を訪ねてこう頼んだ。あの果実を毎年、前に譲って貰ったよりも多く貰えないか、と。その時はどう答えるかな?」
「さすがにそれは図々しいかなぁ」
「そうじゃな。そう思うのが普通じゃな」
  ボルティスは二度、頷いて同意をする。
「では、少し前提を変えてみよう。儂が姫君の父であったとすればどうじゃな?」
「自分の取り分が少し減ってもお裾分けすると思う。……そういうことか。つまり、成立させることが前提条件になって、妥協できる一線も少し下げられる」
「その通りです。無論、お互いに退けない一線があることは確かですが、それを侵さなければ今よりも融通の利く関係となれます」
「……ふと思ったんだけど、それって仲直りの切欠にも出来るってことだよな?」
「アジタ王陛下が姫様がおられなければ、縁談を申し込んでいたと仰っていたことをご記憶ですか?」
「あぁ、なんか言われた気がする」
「陛下が狙ったのはまさに関係改善のための婚姻です。小国からの輿入れの最大の利点は姫君の祖国からの影響を小さくできる点にあります。選択肢としてアジタは有力ですね」
  昔、テレビか小説で見知った事を思い出した。
  将軍家のお姫様は大名家に嫁いでも、大名の奥方ではなく将軍の娘のまま。
  つまり実家の影響力をそのまま持ち込んでくるのだという。
  仮にニルヴィーナとそういう関係になったら、彼女を介してサベージからの要求を聞く事になるかもしれないということだ。
「先王陛下崩御によって揺らいだ両国の関係を再構築する切欠に出来るとお考え下さい。あとはご家庭の判断にお任せします」
「ひょっとしたらの話だしね」
  その後、アスナは二人と今後のことについて、簡単に相談をしてお開きとなった。
  話を終えると内大臣オリザエールと騎士たちへの勲章授与について相談をした。
  内府は外国人叙勲制度に基づいて行う旨の返事を受けた。
  また、今日と明日は狩猟会明けの休養日となっており、アスナは使節や騎士たちに労いの使者を送っている。王宮府の職員に酒や茶葉、綿布などを持たせ宿所に向かわせていた。
  休養日といえども、それなりのやり取りは必要なのだ。
  といってもアスナが応対する訳ではないので、今日はこのまま後宮でのんびりする予定だ。賢狼の兄妹も今日は宿所に戻っている。
  ニルヴィーナの件を相談するには丁度良い。
  王城内の装いが若干変わっていた。これまで見慣れていた調度品とは異なる物が幾つ見られた。それらは副王就任を祝して贈られた品々だ。
  巨大な白磁の壷には深い森と湖を一望できる涼しげな風景が描かれている。
  螺鈿細工が施された剣を手にする甲冑、勇壮な鷹を描いた大皿と様々だ。
  友好の証として贈られたこれらは、人の目につく応接室やそこに続く廊下に飾られている。それは後宮内でも同じで、様々な贈り物が飾られている。
  専門家を呼んで美術品の楽しみ方を教わるのも、休日の過ごし方として悪くはない。
  後宮への扉を開くとミナが控え室から出てきて出迎えてくれる。
  あれ以来、彼女は角と羽を出したままにしている。時折、何か辛そうにしていることもあるがアスナは口出しをしていない。何かあればストラトやシアが対処してくれるだろう。
  主と言えども職分を侵しても良いことはないのだ。
  彼女はアスナの部屋を整えると雑事をこなし、アスナが戻る時間を見計らって控え室で待機することになっている。とはいえ、まだまだ未熟な点がある彼女はエルトナージュ付きの侍女であるシアについて色々と学んでいる最中だ。
「二人は?」
「殿下のお部屋でお寛ぎです」
「オレの分のお茶を。あと昼もこっちで摂るから」
「承知しました。何かご要望があるでしょうか?」
  ……久しぶりにラーメン食べたいなぁ。
  と、思ったがラーメンの作り方をアスナは知らない。料理人たちに試行錯誤させているが、中々これといった物が出来ていないのが現状だ。
「任せる」
「以前、殿下がご命じになられた調理パンの試作が出来ています。そちらをお出ししましょうか」
「遂にか。うん、それじゃ今日はそれで」
「分かりました」
  などとやり取りをしつつアスナは自分の部屋に戻った。
  ミナが知らせた通りエルトナージュとサイナが碁盤を挟んでお茶をしていた。
「あら、お帰りなさい」
「ただいま。しっかり怒られてきたよ」
「アストリア様に贈る鎧の件ね」
「分かってたなら助言してくれても良かったのに」
「その前に陛下に助けを求めたんだから、私からは何も言えませんよ」
「そりゃそうかもしれないけどさ」
  話をしている間にサイナは碁盤を片付け、アスナの椅子を用意してくれる。
「私の叔父といっても他国の王。それを忘れていたアスナが悪いんです」
「思った以上に高い授業料になったよ」
「それはそうとニーナの件、ボルティス様と宰相はなんと?」
  早速本題に入った。サイナも表情を改めてアスナに頷いた。
「現状、反対する理由がないから申し込まれたらオレたちの判断で好きにして良いってさ」
「そうでしょうね。ただ、受け入れればロゼフは生き残ることになるでしょうけど」
「この話はロゼフにとっても吉報か」
  サベージは現在、ラインボルトとロゼフ、そしてラディウスに物資を卸して大いに儲けている。特にロゼフはワルタ地方を維持するための物資をサベージに頼っていたようで途轍もない金額が動いているらしい。
  この取引は全て現金決済ではなく、掛け取引や手形取引などで行われている。
  特にロゼフと付き合いのある天鷹族は多額の債権を有していると調査で分かっている。
  仮にラインボルトがロゼフを併呑してしまった場合、天鷹族などは保有するロゼフの債権の全てが紙切れとなってしまう。そうなればサベージの国内経済は大混乱に陥るだろう。
  これを防ぐためにサベージが軍事行動にでる可能性もあるとラインボルトでは見ている。
  ロゼフ救援をサベージが行うには大義名分に不足がある。そのため、有志による義勇兵を派遣するという体裁で行うのではないかと推測されていた。
  借金は債務者か、相続人がいるからこそ意味があるのだ。
「そういう政治的な事情も大切ですが、アスナ様はニーナ様のことをどう思ってらっしゃるんですか?」
  そちらこそが大事だと言わんばかりにサイナは尋ねた。
「そういえば随分と可愛い可愛いって誉めてましたね」
  と、ジト目でエルトナージュが睨んできた。背中に嫌な汗が浮かぶ。
「可愛いっていうのは嘘じゃないんだけど、恋愛感情っていうのじゃないから」
「では、どういう意味ですか?」
「恋人の友だち、友だちの妹。……ええっと、身近な例でいえばミュリカかなぁ」
  彼女の場合は恋人の義妹、友だちの彼女と非常に似通ってる。
「ミュリカの場合、これに戦友と臣下って要素が加わるから、またちょっと違うとは思うんだけど」
「そういう見方をしていたんですか」
「サイナさんも分かるだろ。相手は余所の国のお姫様なんだから、誰かを間に挟んでないと、どう話をして良いかわからないじゃない」
「それはそうかもしれませんが」
  サイナの場合はエルトナージュやミュリカを間に挟んで、ニルヴィーナと接している。
  別に彼女を避けているのではない。失礼がないように遠慮しているのだ。
「少しニーナ様が可哀相ですね。私が言うようなことではありませんが……」
「実際のところ、アスナはどう思ってるんです? ニーナのことは好き?」
「可愛いって思うのは本当だし、これからも仲良くできれば良いなとも思ってる。それにあれだけ好意を見せてくれたら悪い気分にはならないよ」
  切欠は彼女の耳と尻尾の件だろう。
  これまでの努力と体質全てを肯定されたのが余程嬉しかったに違いない。
「気付いていたんですか」
「意外そうに言わない。あれで気付かなかったら、どこかおかしいって」
  そういいつつアスナはサイナの頬を引っ張った。
「すいません」
  彼女の頬から手を放してアスナは二人を順に見た。
「オレのこともそうだけど、二人はどう? 二人が嫌なら、周りが推してもこの話は無しにするから」
  まず大切にすべきなのは彼女たちだ。もちろん、ニルヴィーナが来ることになれば、この中に入るが今はまだ友人の域。なによりアスナ自身が戸惑っている。
「私は反対しません。むしろ、こちらに来ていただいた方が、ニーナ様には良いかもしれません。公の場では息苦しそうにしておられますから」
「そういう気遣いも良いけど、サイナさんの気持ちの方」
「ニーナ様となら仲良く出来ると思います。それにアスナ様のことを信じていますから」
  そう言われて微笑まれると照れてしまい、赤面を抑えきれない。
  そんなアスナの様子を嬉しげにサイナは見ている。どうにも彼女と顔を合わせるのが恥ずかしくて、アスナは頬を掻いて、視線をエルトナージュに向ける。
「えっと、エルは?」
「わたしは……そうですね。賛成も反対も出来ます。だけどね、わたしたちはお互いに望んで側にいるの。政治や現状に背中を押されてじゃなくて、アスナが望んでニーナを迎えないと心からの納得に時間が掛かるし、埋める事の出来ない隔たりをわたしたちとニーナの間に出来るの」
「隔たりって、出身国の違いとか?」
  違う、とエルトナージュは首を横に振った。
「さっきも言ったでしょ。わたしたちはアスナに望まれて側にいる。だけど、ニーナはまだ、そうじゃない。これはとてもとても大きいことよ。だから、もしニーナをわたしたちの輪に加えるのなら、アスナが望むところから始めて」
  席を立つとエルトナージュはアスナの手を取り指を絡め、引っ張り上げた。
「サイナも」
「……はい」
  察するところがあったのかサイナも同じようにアスナと指を絡め合った。
  それが不思議なくらいに艶めかしい。
  エルトナージュはそのままアスナたちを引っ張って寝台へと向かう。
  三人で縁に腰を降ろしても寝台は軋むことなく、優しく受け止める。
「奥のことは心配しなくて良い。わたしは未来の王妃様だもの。しっかりやってみせるわ」
  頬に手を当てられて、そのまま促されてエルトナージュの方に顔を向ける。すると、そのまま彼女にキスをされた。二度、軽く唇を触れ合わせると、
「大丈夫。上手に貴方を共有してみせる。だから、貴方は安心してわたしたちを独占すれば良いの。なんだったらこれから証明しましょうか?」
「証明って?」
「ミナを愛人にするの。それで今日は一日爛れた時間を過ごすの。良い練習になるわよ」
  ……なに突拍子もないこと言い出すんだ!?
  思わず飛び出そうになった言葉を強引に飲み込んだ。
「いやいやいや。ミナは侍女だから。王様が侍女に手を出すなんてないから!」
「あの子は貴方に差し出されたものよ。彼女の志を考えれば、律儀に操を立て続けるでしょうね。誰かに嫁ぐ事もなく、ずっとアスナの側に」
「いっ」
  喉の奥から声が漏れた。アスナの意向としてはそのうち良い人が出来れば、そのまま送り出してあげるつもりだったのだ。そんなどこにでもある生活が送る方が彼女たち星魔族にとって良い、と思っていた。王に仕えることは普通のことではないのだ。
「けどさ、二人とも複雑な顔をしてたじゃない」
  エルトナージュにせよ、サイナにせよあまり良い顔はしていなかった。だから、手を出す云々に頭が回らなかったし、そんな彼女たちの雰囲気を察してストラト辺りが良縁を紹介するんじゃないかと思っていたのだ。
「色々と思うところがあるのは確かです」
  今度はサイナに促されて彼女と向き合う。
「ですが、彼女は有用です。頑張りすぎるアスナ様には彼女の力が必須です。先日の捕虜たちの件で星魔族の力は証明されましたから、渋々ながら近衛では彼女たちを衛生隊に誘致しようか検討をしています」
「……知らなかった」
「誘致すると結論が出ればアスナ様に改めて話がいくと思います。星魔族を受け入れれば、医療面で地歩を与えてあげられると思います。そのためにも彼女にはもう少し目立つ場所にいて貰った方が都合が良い。この辺りのことは私とエル様でもう言い含めています」
  技能があるのは分かった。あとは献身を示して欲しい、ということだろう。
  リーズと敵対しながら、リーズが作った偏見を残している。
  おかしな話だとは思うが、偏見とはそういうものなのだろうし、だからこそ星魔族は今も姿を隠し続けているのだろう。すでに歴史の中に消え去ったと思わせるほどに。
「二人の掌の上か」
「ご不快ですか?」
「そんなことないよ。ただ、ニーナとミナをそういう風に見てなかったから戸惑ってるんだ。それにひょっとしたらオレたちだけで勝手に盛り上がってるんじゃないかって」
「少なくともミナには確認を取っていますよ。あとはアスナ様が望まれれば」
  これが世に言う『心利きたる家臣』というものなのだろう。
  確かにニルヴィーナのことは可能性として検討すべきことであり、ミナのことは不用意に受け取った責任を取らないといけないのかもしれない。
  ニルヴィーナの耳や尻尾を弄ってみたいなとも思うし、ミナの艶やかな黒髪を撫でてみたいとも思う。が、そこに愛情の類はない。
  左右に寄り添う女たちを見る。二人とは、一緒に色々なことをしてみたいと自然と思えてくる。真面目なことからイヤラシイことまで幅広く。それは明け透けだということ。
  幻想界に召喚されて以来、苦楽を供にしてきた。いや、生死を乗り越えてきたと表現した方がより正しいだろう。無様な本音や虚勢を曝し、それでも一緒にいてくれる相手だ。
  特別という言葉だけでは足りない。二人のために理屈をつけて国を動かせるほどの特別。
  では、ニルヴィーナやミナのために動かせるかと考えれば、それは出来ない。
  そういう点でも差がある。平等に接することはできない。
  そんなことを考えているとエルトナージュがまた接吻をしてきた。今度は深く。
  絡め合い、交換をする。互いに漏れる吐息が艶めかしく、鼻息がくすぐったい。
「また難しく考えてる。もっと気楽にして良いのよ。二人ともわたしみたいに面倒じゃないもの」
「けどさぁ」
「わたしとサイナも違うのよ?」
  アスナはそのまま後ろに倒れてベッドの上で大の字となった。
  そろそろとベッドに上がったサイナは彼の頭を自分の膝の上に載せた。
「エル様が仰ったように深く考えなくても大丈夫です。仲良くしたいかどうかです。私たちと比較する必要なんてありませんよ」
  エルトナージュは王妃で、サイナは夫人となるのだ。ここからしてもう違いがある。
  王妃は後宮の一切を統括し、夫人には身の回りに関する以外の権限を持たない。一番大きな違いは生まれた子どもは全て公的には王妃の子となる。
  なお、愛人の子も認知されるが殿下とは呼ばれず、長じれば名家の格式を与えられることになる。
「……そういやさ」
  見上げるととても豊かな胸がある。非常に魅力的な情景だ。
  アスナはそれを捧げるようにして両手で揉んだ。量感があって柔らかい。
  手指が沈み込もうとするとするのを心地よく押し返してくる。
  頬を紅潮させてサイナはアスナの好きなようにさせる。
「なんでエルとサイナさんは二人を薦めてるんだ? 普通はそういうの嫌なんじゃないの」
「もちろん、打算はありますよ」
  エルトナージュはアスナの腰の上に座り、そのまま彼の上着を脱がし始める。
  撫でるような手付きで上から順番にボタンを取っていく。
「就任式の行事でアスナは高く評価されています。そうなると縁談の申し出は必ずあるわ。よく分からない子が来て奥を乱されるよりも、もう仲良くできてるニーナに来てもらった方が安心だし、政府と議会が利権云々揉めることもない。都合が良いの」
  彼の裾をはだけさせると、彼女は胸や腹などを撫で回し始める。
  特に以前、刺された後の辺りを。
  何が楽しいのか分からないが、最近好んでそうしている。
「それにね。あの子が来てくれるとわたし達に余裕が出来るの」
  撫でていた指が傷痕の上で止まり、若干の力を込めて圧された。
  この傷は生死の境界に立ったアスナを彼女のペンダントが守り抜いた証でもある。
「真面目だから娯楽の範囲が狭いのよ。けど、ニーナは思ってたよりもずっと多芸みたい。貴顕の嗜みから品のない芸事まで。本職の道化師を雇えば済む話なんだけど、道化師が外交面での利益を作るのは難しいもの」
  その点は確かに自分たちの欠点だ。アスナの器にまだ基礎的な知識や技能が満たされていないため、それに付随した芸事を中心にせざるを得ない。
  楽しむために楽しむことが不足気味なのだ。睦言すらこうなのだから。
「それにニーナは貴方のことが好きなのよ?」
  それこそが一番重要だと言わんばかりの口調だ。
「さっきも言ったけど、あれだけ勢いよく尻尾を振ってくれてるんだ。分からないほど鈍感じゃないよ」
「だったら、あとはアスナの気持ち次第。それともこう言った方が貴方好みかしら。サベージからニーナを奪ってしまえ」
「また凄い事を言い出した」
「どちらにせよあの国がロゼフとの戦争に介入してくるのは目に見えている。何かの機会に和平案を提示してきたら、その席でニーナが欲しいって言えばいいの。サベージも無碍にはできないわ。だって事実上の同盟要請だもの」
  ……そういうことか。
  彼女がここまでニルヴィーナを勧める理由。サベージ王族と縁戚となることで擬似的に両国が統一したと見なそうとしているのだろう。
  幻想界統一を目指したエルトナージュの代償行為。
  サイナを夫人としたことをアクトゥスに認めさせ、ウーディン家の名誉を回復させる。
  ニルヴィーナがアスナに輿入れすればアクトゥスは焦る。そうなればすでに寵愛を受けているサイナを養子とすることで婚姻とみなそうとするのではないか。
  ウーディン家の名誉回復にエルトナージュが積極的な理由はこれだったのだろう。
  二人を介して東西の大国との繋がりを強化する。それをもって東西統一とみなす。
  彼女がそれを口にしないのはサイナたちを蔑ろにしたくない気持ちもあるからだろう。
  アスナは身を起こすとエルトナージュを抱き締めた。彼女の翠の髪から爽やかな香りがする。常用している洗髪料の匂いだ。
  背に手を回して素早くワンピースのボタンを外す。剥き出しいなった肩は乳白色にごく僅かな赤味を加えたようになっている。肩だけではない。エルトナージュの顔も同様だ。
  可愛いなぁ、と思う。相談をしている時の凛々しい顔や公的な場にある時の美しさ。
  ニルヴィーナらを受け入れるのに躊躇する一番の理由。
  それはエルトナージュとサイナに夢中になっているからに他ならない。
  無論、健康な若人なのだから、可愛い女の子に好意を向けられれば嬉しいし、美しい裸身を目の当たりにすれば血流が早くなる。が、それは一時の事に過ぎない。
  幻想界に召喚された時から握った手を放さないように努力した相手であり、そんな自分の背を押し、時には守ってくれている人と比較はできない。
  そんな彼女たちから側にいる女を増やせと言われても困惑するしかないのだ。
  その一方でシエンやエルトナージュが説明してくれたことを参考にすれば、またとない好機。逃す手はない。王様の判断として有なのだ。
  これまでニルヴィーナに遠慮があったことも確かだ。
  賢狼族の歴史を紐解けば、次の賢狼公を選ぶ選考会で当主の子息が勝利した場合、第二位者に娘が嫁ぐ例が幾つかあるのだ。今回の場合、アーディに嫁ぐ可能性があったから。
  先日の宴席で賢狼公は彼に然るべき娘との見合いを用意すると言った。
  相手がニルヴィーナであれば、その場で婚約を発表という形にするはずだ。そうしなかったということは賢狼公にその気がないということだ。
  アスナはエルトナージュを抱いたまま左手側に寝転がるようにして押し倒した。
  揉み合った拍子でワンピースが胸元まで下がり、非常に扇情的だ。
  先ほどのお返しだ、とばかりにアスナは彼女の腹を服の上から撫でる。しなやかな弾力が指先に返ってくるのが分かる。
「つまり、ニーナと一緒にこういうことがしたいってことだ」
  少し意地悪なことを言ってみる。すると途端に顔の赤味が増して耳まで染まってしまう。
「ちがっ。そうじゃ……」
「二人っきりだけじゃなくて、今みたいに三人ですることもあるんだし。ニーナが来たら当然四人ですることもあるよ」
  想像するだけで大変だ。翌日、身体は大丈夫なんだろうかと考えてしまう。
「あれはアスナが望んだから」
「けど、今日はエルが誘ったんだぞ?」
「だから、これは……ひうっ」
  不意打ちに彼女の内股を撫でてみると変な声が漏れた。
  思わず吹き出そうになった笑いを噛み殺しながらアスナは身体を起こしもう一人の大切な人に向かった。
「サイナさんはどう。ニーナとしてみたい?」
「湯浴みをご一緒させていただいた時、お姿を拝見しました」
「どうだった?」
  背後で、もう終わりなの、と声がした気もするが聞こえなかった事にする。
「とてもお綺麗でしたよ。触れてみたいぐらいに」
「女の子同士なんだし、触ったりしないの?」
  以前から何となく疑問に思っていたことだ。そう言う事はあり得るのか。
  だが、期待は瞬く間に崩れ去ってしまう。
「しませんよ。例えば、団長と湯浴みを供にした時、どれだけ鍛えたかお互いに触りあって確認しますか?」
「しない」
  即答した。そんなことをする自分たちの姿が思い浮かび、気持ちが萎えてしまった。
  するとサイナが脇から手を入れて背中に手を回した。ぽふっ、とアスナは彼女の胸の中に招かれて顔を埋める。抱かれたままエルトナージュの隣に転がされる。
「好意は向けられても手を伸ばせない少女をこちらに招きませんか? きっと今よりも楽しいですよ」
「……そうかな?」
「はい。だって、今が楽しいんですから。仲良くなればもっと楽しくなりますよ」
  するとエルトナージュが背中から抱き付いてきた。彼女はアスナの後頭部に額を付けた。
「エル?」
「……なんでもない。くっつきたくなっただけ」
  サイナには思い当たることがあったのか優しく微笑んでいる。
  二人に抱き付かれることが嬉しい。今の感情は二人と一緒にいるからだ。
  だったら、ここにニルヴィーナやミナが加われば、これとは変わってしまうだろう。
  毎回、全員でベッドを供にせねばならない訳ではない。
  この三人での時間はこれまでも変わらず、少し変わって存在しているのだろう。
  だったら、増える可能性に戸惑う必要はないのかもしれない。エルトナージュが言ったように見知らぬ誰かではないのだ。好意を向けてくれ、仲良くできている相手が加わる。
「王様らしくニーナを誘ってみるよ。うちにおいでってさ」
  ミナについて保留だ。王様と侍女という関係がようやく出来はじめたばかり。
  何より次々に増やしていくのはだらしなく思える。
  抱き締める二人の腕に力が篭もるのを感じた。これが二人の本音なのだろう。
  アスナが知らないところで相談をして迎えるように促してくれたのだ。
  本来であればアスナが先に決断をしてから二人に話を持ちかける案件だ。
「身勝手なことだけど、これからも仲良くしよう。二人ともこれからもよろしく」
  はい、と二人ははっきりと応じてくれた。そのことに強い安堵を覚える。
  と、不意にノック音がした。自室に戻る前に注文していた昼食が届けられたのだ。
  居間と寝室は分けられているので、この寝台上の有様は見られる心配はない。
「もう昼か。残念だけどここまでにしよう。……続きは今晩。良いかな?」
  はい、と二人は応じてくれた。これからも今回のようなことがあるのだろう。
  敢えて都合の良い女であろうとしてくれる二人を大切にしようと、改めて思う。

 君主が休暇を取っていても臣下も同様とは限らない。
  王城へ戻ったヴァイアスらは早速、報告と今後の検討をすべく会議を催していた。
  出席しているのは団長であるヴァイアス、副長デュラン、そしてアスティークら参謀たちだ。彼らは一様に表情に疲れの色が見られた。
  恙無く行事を進めるための警備任務に彼らは奔走していたのだ。
  敢えて人目のつく場に立つヴァイアとは違い実務を担うデュランとアスティークは特に疲労が濃いように見える。現在、近衛騎団は三つの作戦を進めている。
  一つは就任式の警備任務。もう一つは奴隷として得たアクトゥスの将兵たちの管理。
  そして、最後の三つ目はロゼフへの親征だ。
  警備任務は日常業務の延長であり、場所は縄張りでもある首都エグゼリスとその周辺。
  油断をしなければ手慣れたものである。また内乱を経たことで首都防衛軍との連携が以前に比べて容易になったことが大きい。気分の面でのみだが、楽になったほどだ。
「警備については常にある諸問題が多発していますが、全て想定内に収まっております。首都防衛軍との連携が上手くできていることが大きいです」
  と、アスティークは疲れの中にも笑顔がある。
「ファーゾルト副司令官のおかげだな。あとで顔を出して礼を言いに行くよ。それよりも問題なのは捕虜の連中だな。……どうだ?」
「治療そのものは問題なく進められています。こう言っては何ですが新人衛生兵の練度を上げるのに利用させて貰っています。そういう事情から軍からも受け入れています。あとは星魔族もなかなかですね。気が抜けて痛みや悪夢で安眠できない捕虜たちに一時の安堵を与えてくれています。ただ人数が少ないせいで彼女たちも疲れ切っています。現場からは増員して欲しいとの要望ですが……」
「軍師の依頼だったとはいえ、アスナを拉致して刃を突き立てた連中だ。使えるヤツらなのは分かった。あとは俺たちだ。飲み込めるか? 部下たちを抑えられるか?」
  ヴァイアスは出席した一同を見回した。どの顔も曰く言い難い表情を浮かべている。
  無理もない。正面からぶつかったのであれば、気持ちの整理を付けやすい。
  手段が非正規であり、その上目標が主君であったのだ。容易に飲み下せるものではない。
「……今更、じゃないか?」
  副団長たるデュランがそう言った。ため息混じりというか、諦め混じりのようだ。
「もう主がLDを受け入れてアイツらを使ってるんだろ。その上、侍女にまでしている。今更だ、今更。一番の被害者が血肉にしているのに俺らがグダグダやってどうするんだよ」
「……具体的には?」
「司令部付きの衛生班を作って必要に応じて適宜派遣をする。無論、星魔族だけじゃ問題があるから古参の連中も何人か加える。その上で抜き打ち的に古参の連中を入れ替える。星魔族の認知も広がるし、取り込まれる可能性も減らせる」
  後ろ暗いことをしている連中である。古参兵たちを取り込んで近衛騎団の内情を吸い上げられてはたまらない。念を入れる必要がある。
  これはなにも星魔族に限った事ではない。例えば、アスナに外国から誰かが嫁いできた場合、その夫人や付き人たちには侍従や護衛役などの口実を作って監視をする。
  外から何かを取り込むということは副作用も甘受せねばならない。
「ってことでどうだ、ヴァイアス」
「…………」
  この件で一番拘っているのは実はヴァイアスなのだ。
  防御にかけては自信を持っている。その自負を突き崩してきた相手なのだ。
  何より友人を殺されかけて、容易に納得できるはずがない。
  むしろ、あっさりと受け入れているアスナの方がおかしいのだ。
「副長の案で検討。それで可ならアスナに話してみる」
「参謀長、そのように」
「分かりました。では、続けます」
  アスティークは大柄の見かけとは正反対のとても控えめな咳払いをした。
「続いて、春期に始まる親征ですが、まだ政府の方針が決定していません」
  彼らを疲れさせている原因はこれであった。
「ロゼフ地方の視察に止めるのか、ディーゲン市まで行くのか。それとも北方総軍に加わるのか。現在、この三つを想定して行動計画を立てています。新人たちの練度を考えれば、ロゼフ地方への視察に止めて貰いたいのが本音です。出陣まで時間があるとはいえ、期待される練度まで鍛えられるかと言えば、非常に困難であるとしか言いようがありません」
「それらしく行軍させるだけで精一杯か」
  ここでいう「行軍」は一通りの行動を習熟できるということだ。
  想定される状況でならば問題ないだろうが、それから外れると脆い。
  軍隊は動き出した途端に崩壊を始める組織だ。ただ戦場へと向かうだけで怪我や病気、迷子や逃亡などで兵員を失っていくのだ。訓練で経験しえないことがよく起こる。それに対応しようという心構えが出来て一人前と言えるのだろう。
  訓練を多くこなしてその中で生じる不測の事態に対応させ、時には魔獣を相手に実戦経験を積ませる。これぐらいを近衛騎団は求めていた。
  が、その機会を用意する時間的な余裕はない。
  ヴァイアスはこめかみを人差し指で掻くと判断を口にした。
「北方総軍と行動を共にする前提で計画を立ててくれ。残り二つは破棄で良い」
「そこまで行くでしょうか」
  アスティークも自分の言葉に自信がなさげに見える。
「行くだろ。ちょっと遠出しただけで駄竜騒ぎに巻き込まれるヤツだぞ。アイツと戦場に出て問題が起きない訳がない」
  会議の出席者は二つの反応を見せた。諦めと困惑である。
  前者は内乱中アスナとともに行動していた者たち、後者はデュランが率いた別働隊だ。
「報告書は見たが……。そんなにか」
  困惑する者たちを代表してデュランが尋ねた。
「今度は一緒に頑張ろうな」
  ポンとヴァイアスは左手に座る副長の肩に手を置いた。
  報告書でダメならば、実体験して貰う他ない。見れば参謀たちも知らない者に激励を行っている。
「軍には俺たちがそういう方針で計画を立てているって伝えておく。他に何かあるか?」
「ない。あとは俺たちに任せて半休にしろ」
  デュランがそう言った。彼自身、美丈夫が台無しなほどに疲れて見える。
  彼だけではない出席者の殆どが同じ様な疲労を抱え込んでいる。
「いや、だけどなぁ」
「だけどもない。上が率先して休んでくれないと、こっちは休みにくいんだ。状況を見て休暇は入れる。疲れて阿呆な判断を下さないように休んでこい」
  シッシッと追い払うようにデュランは手を振った。
  確かに疲れているのも確かだ。サイナたち護衛隊は狩猟会では特に気を張っていた事もあり、アスナと合わせて終日休暇としている。
  ヴァイアスも疲労の意味では変わらない。休息は必要であった。
「あー、分かった。あとは任せる」
「おう。休暇だからって第三魔軍に顔出したり、アスナのところに行くなよ」
「行かない行かない。それぐらいの気遣いぐらい出来る」
  そう言い残してヴァイアスは会議室を後にした。
  とりあえずミュリカを誘って遅めの昼食を外で摂ろう。その後は要相談だ。
  アスナも外に出ないまでも似たようなものだろう。
  今度、街の様子を話してやろう。自由に外に出られない友人のためのささやかな土産だ。

 



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