第六章

第四話 TRICK or TREAT 2

「副王殿下のご命令により私、オリザエールが議長役を担わせていただきます。以降はこの会合を協議会と呼称することに致します。次回は三日後、午後二時からの開催と致します。ご都合が悪くなられましたら、恐れながら私めにご一報下さいますようお願いいたします」
  同意の沈黙が落ちる。五秒の時間をおいて、オリザエールは立ち上がり、一礼をした。
「それでは、本日は散会と致します」
  まず立ち上がったのは行政府を代表する大臣らだ。
  財務、内務、外務の三卿に、軍務大臣はほぼ同時に立ち上がった。四人は王家の当主らに深く一礼をすると足早に部屋を辞した。
  大きな権限を与えられている彼らは非常時には特に忙しくなる。
「私も失礼させていただきます」
「宰相殿も行かれるか。お立場故、もう少し何か思うところがあると感じたが?」
  口髭豊かな老齢の議員がどこか皮肉げに言った。
「思うところはありますが、所詮は私個人が思うところでしかありません。不満を口にして処理せねばならない案件が減るでもなし。アルニス殿下のご意向を無視してアレコレと言い募るのも不敬というものでしょう。では、失礼致します」
  このやり取りに便乗して大法院院長と残りの大臣たちが席を立った。
「政府は副王殿下の手足ゆえに、な」
  最も長い時間ともにしているため、話をする機会も多ければ、アスナの気性も大まかに把握している。意見を述べずに席を立ったということは事実上の賛意表明であった。
  もちろん、やるべきことが多いからという点も無視できないが。
「…………」
  自然と全員の視線がエルトナージュに集まる。
  アスナと最も親密な彼女に回答を求めようとするのは当然のことだった。
  次の王に直接尋ねられないことでも、彼女にならば聞けることは多いのだ。
「姫が侍りながらこのようなことになるとは、しっかりと国史を進講せなんだのか?」
  王家の長老格、スダーシェ家当主がそう問い質した。声音には詰問の色があった。
  老齢ではあるが背は真っ直ぐであり、矍鑠たるものがある。豊かな白髭は肉体の衰えの代わりに威風を与えていた。スダーシェの当主は武芸に優れ、自身も領内での魔獣討伐に出陣するなど内乱が始まるまで王に次ぐ武勲を誇る王族であった。
  寛容さと情の深さを持つ、ある種戯画的な王の姿がそこにあった。
「しました。礼法などよりも余程歴史の講義を好んでいるようです。余暇の時間に平易な歴史書を好んで読んでいます」
「ならば、なぜラディウス家を族滅するなどと仰られるのだ。お読みになられた史書に偏りがあったのではないか?」
  ラディウス家の処遇をどうするのか。その話をせねばならないのだが、彼らはまだアスナが示した提案の衝撃から抜けきっていなかった。
「偏りのない史書などこの世にありませんよ。講義にはボルティス様が編纂なされた史書を使っています」
  ラインボルト贔屓がところどころ見受けられるが、概ね公平と歴史家の中では評価されている。王族は皆、このボルティスの史書から歴史を学び始めている。
  理解しやすさから入門書として広く好まれている。
  王家の当主らも同じ物から勉強を始めたため文句は言えない。
「だが、それにしても族滅するというのは如何なものか。同じラインボルト王家だという自覚があるのか。いやそれ以前に王の力をこのように使うとは」
「自覚があるからこそ、この場に皆さまをお呼びし、判断を求めたのだと思います」
  実際のところは他にも目的がありそう、とエルトナージュは考える。
  坂上アスナにとってラディウス家とは、存在を知っているだけの遠縁でしかない。一族の情と言われても困るのだ。
  エルトナージュも、若干の忌避感を覚えるのみで、試みとして悪くはないと思っている。
  だが、古い王家はそうは考えていない。だから、判断をこの場にいる者たちに投げた。
「では、私たちが提案を退けてもアスナ様は受け入れてくれると?」
  と、トレハは探るように確認をした。
「はい。議論の末に出た結論ならば」
  確証を持って言える。
  間違いなく会議の決定を自分の責任で決定したかのように振る舞うだろう。
「ならば、もう結論は出ているだろう。これまで通りでよい」
「ですが、長老。ラディウス家は大軍勢を用意しているとか」
  と、長老スダーシェの左隣に座る三十半ばほどの王家、フェンメル家当主が口を挟んだ。
  領地とは別に果樹園を経営している。毎年、実った果物を王城に届けてくれていた。
  穏やかな気性の彼だが、南部にある自らの領地が関わることとなれば話は別。強面の長老にも一言物申さずにはいられなかったのだろう。
「強気に出ようと数を揃えるのはいつものこと。ラメルで若干譲ってやればそれで終わる話。副王殿下は些か浮き足立っておられるのやもしれぬ。どっしりと構えて大人の対応をして貰わねばいかん」
  スダーシェの言葉に同意する議員が何人かいる。
  これは彼らだけの反応ではない。ラインボルトが抱えているある種の病気なのだ。
  ラディウスがラインボルトに対して何らかの行動に出た際、穏便に済ませるようにこちらから譲歩をする傾向にあった。この傾向は様々な階層の者たちに見られる。
  反撃を試みようとすると横から「大人の対応をせよ」と口を挟んでくるのだ。
  ラディウスを下位に見せていたり、寛容な姿勢を見せる自分に酔っているのか。はたまた遠い将来、両者が一つになった時に産まれる超大国を夢想しているのか。
  どのように考えているのかは人それぞれ。
  しかし、そうであるからこそ完治しにくい病であった。
「なぜロゼフの時のように寛容であれないのか。理解できぬ」
「ある意味で非常に寛容では?」
「なんだと?」
  長老は睨み付けるように左隣に座る者を睨み付けた。
「ラディウス家は魔王の力を我が手にしようとしています。副王殿下は大願成就を手伝おうとしているとも言えるのでは?」
「ないわ。そのようなこと。ラディウス家も資格なき者が触れれば命を奪われることぐらい知っておる。あれは構って欲しくて暴れているようなもの。元々あの家は拡大王の方針を堅持すべく決起したのだ。我らがそれに同意すれば自然と一つになる。現実問題として、そうする訳にはいかんがな。だからこそ、ある程度相手をしてあやしてやらねばならん」
  非常に極端だが、この考えが擁護する者たちの核となっていた。
  どう頑張ったところでラディウス家の当主は魔王にはなれないのだ、と。
  これが異常なほどの寛容さを生み出していた。
「同じラインボルトであるならば、尚更今この時に攻めてくるのはおかしいではありませんか」
「そなたはラディウス家を族滅しても構わないと申すのか」
「そうは申しませんが……」
  喧々諤々始める二人を長めながらエルトナージュはどうしたものかと思案した。
  彼女の考えからすれば南方戦線が出来るぐらいならば、ラディウス家を滅ぼしてしまった方が余程良い。前宰相であり、矢面に立つことになる人魔の規格外としての判断だ。
  アスナの王妃様としての考えを除外したのは出来る限り公平であろうとしたからだ。
  アスナの案を実行するには、まずスダーシェの長老を崩さねばならない。
  この時勢で攻め込むというのに擁護の姿勢を変えないのだから筋金入りだ。
  生半可なことでは動かないだろう。
  建前や筋論では手が出せない。相手は感情に基づいているのだから。
  ラインボルト王族は寛大で慈悲深い傾向にある。
  自らの領地経営すらも代官に任せ、出来る限り現実の政治から離れることが好まれるため、こういう万人に受ける気質になりやすい。
  ならば、説得するこちら側も感情を用いた方がよい。
「ところでスダーシェのお爺様。ラディウス家には一軍を率いる方がいると聞いています。その方と相対した時、やはり手心を加えねばなりませんか?」
「そのような具体的な話をしているのではない。情の話をしているのだ」
「えぇ。承知しております。私も情の話をしていますよ。お爺様、ラディウス家に慈悲を持って接するのは結構なことですが、彼らの駄々に付き合わされる民に憐れみを」
「……むぅ」
「それにアスナのことをもう少し考えてあげて下さい。ラディウス家に使者を立てて穏便に収めようとしているのに、背中から斬られるようなことをされたのですよ。族滅云々の前にこのことにお怒りになるべきでは? アスナは皆さまが認めた王家の宗主です。副王就任式への参列を求めたのに返書すら出さずに無視を決め込んだのですよ。数々の無礼を受けてなお、私たちに意見を求めているアスナが可哀相ではありませんか。提案の是非を問う前にラディウス家にお怒りになるのが殿方の、そして長老たるスダーシェのお爺様のお役目ではありませんか。それとも宗主が愚弄されても構わないと仰るのですか?」
  突然、エルトナージュに捲し立てられて面を喰らったのかスダーシェ家当主は困惑したように目を白黒させた。
「落ち着け、姫」
「瑕疵のないアスナを非難して、卑劣な行いをした者を庇われて落ち着けるはずもありません。私は皆さまに認められた彼の婚約者ですよ」
  議員たちの眉が上がった。これまでの言動から政治的な復権を狙っているのでは、と邪推したのだろうか。しかし、婚約者が未来の夫を擁護して、それを批難できる者はいない。
「分かっている。そのことは良く分かっている。だから、落ち着きなさい、姫。そもそも副王殿下が族滅などと言い出したことが原因なのだから、あとでそなたからも口添えして貰えぬか。怒るのは当然。しかし、これはあまりにも無体ではないか」
「いやです」
  エルトナージュは、ぷいっとそっぽを向いた。
「なぜだ。そなたからの口添えがあれば考えも柔らかくなろう」
「私もラディウス家には背中から斬られていますから。ラメルでのこともそうですが、ロゼフを煽動した疑いもあります。歴史ある王家だから、だけでは擁護しきれません」
「だから、そこは大人の態度でだな」
「いやです。アーセイル家は私で二代目ですし、ラディウスのご当主には同年代の子がいると聞いています。そのような方を子ども扱いできません」
「子ども扱いをしたら怒るではないか」
「たまにはお爺様が望まれるように振る舞っているだけです」
「また、そのようなことを言う」
  エルトナージュが故意に感情で反対意見を述べたことでスダーシェ家当主は困り果てた。老顔を天井に向けて、大きく吐息を漏らした。
「エル。エルトナージュ。それにお兄様も落ち着いて下さい。議員たちが呆れていますよ」
  と、トレハが嗜めた。
「確かにラディウス家を擁護しきれないかもしれませんね」
「トレハ殿までそのような」
「噂に聞く城殻竜が先鋒だったとしたら、すでに戦端は開かれているようなもの。罪人として処断するぐらいなら、本懐を遂げさせた方がまだ良いのかも」
「一つの王家が失われるやもしれぬのだぞ」
  長老は力なくそう抵抗するが、トレハは首を振った。
「現実として軍を挙げた以上、どうしようもありませんよ。ですから」
  と、彼女は表情に力を取り戻してこう言った。
「今後、どうなるのかは分かりませんが、より良い方法がないか考えましょう。それがきっと副王殿下のお望みでもあるでしょうから」

 ラディウス家の処遇をどうするかとは別に進軍してくるであろう彼らに対処せねばならない。軍は南部各地に駐屯する部隊の招集され、同時に内々に南部住民の避難計画が準備され始めた。また、即座にロゼフに駐在する大将軍ゲームニスにも事態が通知された。
  ワルタ市を奪還した後、機族が駐屯し、彼らが王城とのやり取りを仲介していた。
  それより先、ロゼフ本国へは馬を使っての移動となる。捕虜を使って街道などを整備させたが、それでも積雪のために伝令の移動は困難であった。
  一報を受け取ったゲームニスは伝令に労いの言葉を与え、従兵に何か暖まる物を食べさせてやれと命じた。
「…………」
  自身の執務机にて一読したゲームニスは静かに瞑目した。
「閣下、何かご命令はあるでしょうか」
「ケルフィン将軍とバウダース参謀長をここに。あとな、奇襲を想定した訓練を上から所望されていると噂を流しておけ」
  二人は別室で今後の駐留生活の打ち合わせを行っている。
「承知いたしました」
  副官は敬礼をして、すぐに執務室を飛び出していった。
  ……さて、どうしたものか。
  雪のちらつく窓の向こう側を眺めながらゲームニスは自問した。
  エグゼリスからの指示は明瞭だ。それを守ることになんら問題はない。
  むしろ、問題なのは本国の方にある。ラディウス軍が動き始めている。
  本格攻勢であれば、困難な戦いとなるはずだ。他国に援軍を求めて、どれだけ助けが来てくれるのかも予想がつかない。
  それは政府の仕事だと言えば、そこまでだが前線を預かる者として背中を支えてくれる存在がいなくなっては軍が壊滅してしまう。
  先日、ディーゲン市を散策してみたところ住民は急いで冬支度を整えようと動いていた。
  過度に必死さが感じられたため、役人にその辺りのことを問うてみたところ、冬支度が遅れ気味だという。この辺りは雪が降り始めると一気に閉ざされてしまう。
  そうなる前に仕度を調えておかねば凍え死んでしまうというのだ。
  ……この冬が色々な意味で山場であろうな。
  ロゼフとの戦争だけではない。ラインボルトの趨勢に関わる冬となる。
  程なくして執務室の扉を叩く音が響いた。
「入れ」
  入室の許しを与えると呼び出したケルフィンとバウダース参謀長が顔を出した。
  屋内も冷えるため二人とも厚着をしている。
  ケルフィンに至っては今日伝令とは別便で届いたアスナからの贈り物――狩猟会で得た熊の毛皮で作った外套だ――を羽織っている。
  どうやら会議が終わったばかりのようだ。
「失礼します、閣下」
「先頃、エグゼリスから伝令が届いた」
「どこかを攻めよとの命令でしょうか」
  参謀長バウダースは眉を顰めて問うた。
「いや、ラディウスが北上してくる兆しありとのことだ。先日、届いた城殻竜とやら。あれは南の先鋒だったのかもしれんぞ」
「宣戦布告があったのですか?」
  ケルフィンは尋ねた。若干、顔色に青みが見て取れる。
  ……そういえば南部の出だったな。
  いや、とゲームニスは感想を胸の裡のみにして首を振った。
「ファルザス・バルディアが総指揮を執るそうだ。そこからの類推だ。……しかし、惜しい話だ。ヤツがこちらに来るのであれば、是非とも私に迎撃を任せて貰いたいところだ」
「閣下。ご自重下さい」
  参謀長は呆れ気味に諭した。
  ゲームニスとファルザスは過去に数度あった小競り合いで相対している。ラメルでの直接対決の他にも援軍として派遣された先でも、だ。
  両者の関係を因縁の相手、好敵手と色々な呼び方があるだろうが、死ぬ前に打ち倒しておきたい相手であるとゲームニスは認識していた。
「ということは帰還命令ではなかったのですか」
「ラディウスに呼応してロゼフでも動きがあるかもしれないから、注意をしておけとのことだ」
  ゲームニスは引き出しからチョコレートを摘み、口に放り込んだ。
「なるほど。……では、将軍たちにも内々にこのことを知らせておきます。それと各地の集落に緊急時の物資と称して幾らか食糧を補完させておきましょう。万が一の時、彼らに炊き出しを命じれば、炊事の手間が省けます」
「頼む」
  と、我が意を得たりとゲームニスは自身の参謀長に頷いた。
  舌の上で溶けたチョコレートの苦みが意識をより明瞭にしてくれる。彼もまた決済せねばならぬ書類は多く気分転換には菓子が丁度良いのだ。
「ゲームニス閣下。備えるというのであれば、南部出身者の多い軍を魔獣退治を名目に国境に暫く貼り付けては如何でしょう。ラディウス軍の北上が明らかになった時、故郷に危難があるとしれば兵たちは常よりも早く駆けてくれるかと。残りの軍には一足早く雪中行軍の訓練を行わせます。鍛錬を積んでいれば少しは行軍速度が上がると思います」
「うむ。他にもあるか?」
「でしたら。我らに降伏した領主たちをここに集めましょう。親睦を深める、副王殿下の為人を教える。口実は幾らでもあります」
  領主を抑えておけば、撤退することになっても近隣領主たちは即座に動くことができなくなる。より多くの部隊を安全に返すことができるはずだ。
「エグゼリスから撤退命令がなくとも、招集に応じたか否か、誰を供に連れてきているかでこちらをどう見ているかが推測できるかと」
  雪解けまで人質を取らない方針であった。あくまで内々の勧めとして話をするに止めていた。自主的にディーゲン市に来るも良し、到着したアスナの呼集に応じる形を取るも良しだ。
  これはロゼフの王族、シャイズ侯爵クディル・ゲーゲンの内応があったからこその措置であった。領主たちの友好よりも、侯爵との冬期不可侵の約束を守る意思を分かりやすい形で見せるためだ。
「この際、仕方あるまいか。……本国の意向を確認しよう」
  もし、とゲームニスは皮肉げに口元を歪めながら続けた。少し思ったことを戯れに口にした。
「貴官が軍政畑を歩んでいれば、次の軍務大臣はそなたであったかもしれぬな」
「お戯れを」
  軍務大臣職は大将軍位よりも格上だ。ケルフィンとしても大将軍を目指しながら、適性は軍政寄りの自分を評価されて困惑を隠しきれない。
「そうかな? まぁよい。エグゼリスの許可が出れば、貴族らへの歓待は貴官に任せる。良いな」
「はっ。お任せください」
「うむ。それとな。奇襲を受けた時の訓練を実施するかもしれないと噂を流しておいた。その辺り含んでおいて貰いたい」
「でしたら、実際に参謀部に検討をさせてみましょう。本日までの捜索で得た情報から敵兵が隠れる場所を洗い出せるかもしれません」
「許可する。巡回の部隊の気が抜けているようなら実施しても構わんぞ」
  状況がどうあれ雪に閉ざされる当地では何らかの刺激を用意せねばならない。
「それとな。市中の雪かきの手伝いを積極的に手伝ってやれ。妙な噂話を気にせずに済む程度にな」
「はっ。了解いたしました」
  当地で一番困ることは兵たちが浮き足立つことだ。敵が狙うのはそこに違いない。
  閉ざされた場所での噂は一万の軍勢よりも恐ろしい。
  噂に囚われずに兵を動かし続けること、その姿を見せて民衆に噂の真偽を疑わせ続けること。ゲームニスの戦いは吹雪の向こうを探るようなものであった。
「帰還命令が出ましたら閣下にはすぐに本国にお戻り頂けるよう手配をしておきます」
「いや、それには及ばない。司令官がいの一番に逃げ出したのでは残される兵の士気が崩壊する。彼らを連れ帰るのが目的であるのに崩してしまっては元も子もない。ケルフィン将軍、ワルタ市のホワイティアと相談して万一の受け入れ体制を整えておけ。子細は任せる」
「承知いたしました。しかし、何事も起きないのが一番なのですが」
  ケルフィンは不安げにそう零した。
「こういうことは準備をしている時ほど起きないものだ。それとリムルのことだ。あれには一度ここに顔を出させたら、地形把握も兼ねて国境当たりで魔獣退治をやらせる。せめてあれだけでも直ぐに戻せるようにしておかねばな」
「そのように調整をしておきます」
  と、バウダース参謀長は応えた。続けて報告をする。
「リムル将軍配下の部隊が使う宿所の建設が遅れています。数日、ワルタ市に留まっていただくことは可能でしょうか」
「……そうだな。折角だ。あの地での戦場を一通り見せておこうか。ホワイティアに案内役を出すように頼んでおこう」
「ありがとうございます。私の方からは以上です」
「鎮定軍司令官からは何かあるか?」
「ございません」
「よろしい。では、それぞれのやるべき事を始めよう」

 



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